東京高等裁判所 昭和41年(ラ)397号 決定 1966年9月14日
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す、相手方の破産申立を棄却する。」との裁判を求め、その理由の要旨は、相手方は件外関西急送株式会社の社長野元栄同専務保田充彦と通謀の上、なんらの利益を得ていない抗告人に対し「世間は、抗告人が株式会社大阪造船所の南俊二元社長(死亡)の三男で相当な財産があると思つているから、抗告人が署名捺印してくれれば世間の信用を得ることができる。署名捺印は形式的なもので抗告人にはなんらの責任を負わせずまた迷惑もかけない。」と申し欺いて、抗告人を錯誤に陥し入れ、件外会社の相手方に対する債務についての債務引受証書に署名捺印させた。したがつて右債務引受は無効または取消し得べきものであるから、抗告人は無効または取消を主張する。したがつて相手方に対しては債務なく、また他の債権者との間には債務免除ないし和解がなされているから破産原因はない。しかるに原裁判所は、相手方が右引受けによる債権を有するものと認定して、抗告人に対し破産宣告の決定をした。よつて本件抗告に及んだというのである。
本件記録を調査するに、相手方の抗告人に対する本件申立債権については疎明十分であつて抗告人の債務引受につき詐欺または要素の錯誤のあつたことを認むべき資料はない。また地の債権者の債権につき債務免除や和解の成立したことを認めることのできる資料はなんら存在せず破産原因についてもその証明十分である。その他原決定にはこれを取消さねばならないなんらの違法な点もない。
よつて、本件抗告は理由がないのでこれを棄却することとし、抗告費用の負担について民事訴訟法第九五条第八九条の規定を準用して主文のとおり決定する。